MabGenesis
2026/10/21時点の情報で作成しています。ブックビルディングは10/21まで、公開価格の決定は10/22です。凡例は【開示】=目論見書・届出書などの一次資料、【会社計画】=会社の業績予想(今回は未開示)、【推計】=筆者の逆算・試算、【第三者】=IPO情報サイトなどの見方です。金額の単位は特記なき限り百万円、株価ベースの指標は仮条件上限830円で計算しています。
エグゼクティブサマリー
| 観点 | 評価 | 要点 |
|---|---|---|
| 技術・モデル | ○ | 完全イヌ型・ネコ型の抗体ライブラリーを持ち、19プロジェクト・導出済み4件。単一パイプラインに依存しない |
| 収益の質 | ✕ | FY26/3の黒字は一時金の積み上げ。自社PJの導出一時金を除くと営業損益はほぼゼロ。上位3社が売上の約88% |
| 実現確度 | △ | 日本曹達がマイルストーン達成を開示(額は非開示)。ただし2Qの黒字化は確実ではなく、通期予想も未開示 |
| バリュエーション | ✕ | EV/売上16.3倍、PBR5.4倍。PERは意味を持たない水準(163〜198倍) |
| 需給 | ✕ | 売上げ出しの98.8%がVC・事業会社。残るVC株は公募・売出の約1.5倍で、90日で解除される |
| リスク | △ | 従業員13名、契約の解約権、為替、ペット用抗体というカテゴリー全体の逆風 |
| 総合 | 公募・初値は見送り寄り | 確率加重の試算で830円は年率−10%。買うなら上場後の500円台以下 |
結論: 技術と事業モデルの発想は評価できますが、830円は「導出が続き、ロイヤリティが立ち上がる」シナリオをかなり織り込んだ価格です。FY31/3に営業利益4.5〜6.0億円(FY26/3の12〜17倍)を出して初めて、年率12%のリターンに届きます。上場直後は低位株・小型バイオの買いで公開価格近辺に張り付く可能性がありますが、2月のロック解除と新株予約権の行使開始という需給の壁が控えています。
前回分析(10/15)からの変更点
| 項目 | 内容 | 判断への影響 |
|---|---|---|
| 日本曹達のマイルストーン | 日本曹達が8/27に「MabGenesisとのライセンス契約に基づくマイルストーン達成」を開示。所定の一時金が支払われる。金額・計上時期は非開示【開示(日本曹達)】。IPO情報サイトは2027年3月期第2四半期の計上予定と見ている【第三者】 | プラス材料。ただし前回の目論見書の読みでは見落としていた。額が小さければ2Qも赤字で、後述の試算ではH1営業損益は−16〜−76百万円の範囲【推計】 |
| Zoetisの2026年Q2 | 売上は24.68億ドルでほぼ横ばい(有機的に−1%)。2026年通期の売上見通しを96.8〜99.6億ドルから91.2〜93.2億ドルへ下方修正。米国でのLibrela売上減が要因の一つ【第三者(プレスリリースの要約)】 | マイナス。届出書が市場の根拠にしているペット用抗体の先行品が失速しており、カテゴリー全体の評価に逆風 |
| 幹事配分 | 東海東京が1,888,700株(95.0%)、SBIとマルサンが各39,700株(2.0%)、マネックスが19,800株(1.0%)【第三者】 | ネット証券の配分は合計約1,000口程度で、当選しにくい。引き合いは東海東京の顧客基盤に依存 |
| 届出書の第四部 | 前回は未確認。特別利害関係者の株式移動は、2026/6/11の優先株から普通株への転換のみ(対価の価格はなし)。直近の第三者割当は、B種優先株が2022/11と2024/12ともに1株400円(分割後)【開示】 | 830円はB種価格の2.1倍、時価総額ベースで2.3倍。1.5倍条項の水準(1,200〜1,245円)はB種価格の3倍超 |
| 初値予想アンケート | 154票で公募割れ(830円未満)が61%。前回は104票で58%【第三者】 | やや弱気に傾斜 |
| 市況 | 2026年のIPO33社は平均+21.1%、公募割れ約33%。10月上場の2社はいずれも初値が公開価格を上回った(平均+41.5%)。一方、医薬品の直近2件(ジェイファーマ、イノバセル)はともに初値0.92倍【第三者】 | 市況全体は悪くないが、医薬品の公募割れが続いている |
| 買い目線 | 前回は倍率の目安で設定(試し620〜650円、本格520〜560円)。今回は5シナリオの確率加重で再計算し、引き下げた | 前回の本格買い帯は加重期待リターンが−1〜+1%と、リスクに見合わないと判断 |
業績予想は10/21時点でも未開示です。
1. ディール概要【開示】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 市場・上場日 | 東証グロース、2026/11/02 |
| 日程 | BB 10/15〜10/21、公開価格決定 10/22、申込 10/23〜10/28、払込 10/30 |
| 仮条件 | 800〜830円(想定価格902円に対して−11.3%〜−8.0%)【第三者】 |
| 公募 | 940,700株 |
| 売出 | 1,047,200株 |
| OA上限 | 298,000株(新庄社長から借株。第三者割当の払込期日は2026/12/2) |
| 上場時発行済株数 | 8,054,700株(OA込8,352,700株) |
| 潜在株式 | 562,000株(新株予約権、上場後に行使可能) |
| 時価総額 | 約64.4億円(800円)/約66.9億円(830円) |
| 吸収金額 | 約18.3〜19.0億円(OA込。想定902円では20.6億円) |
| オファリングレシオ | 24.7%(OA込28.4%) |
| 手取り概算 | 公募分 約6.8〜7.1億円、OA分 最大約2.2〜2.3億円(引受価額は発行価格の92%で計算) |
| 資金使途 | 研究開発費5.42億円、設備1.20億円、運転資金3.56億円(想定902円ベースの上限合計10.18億円)。充当は2028年3月期〜2030年3月期 |
| 主幹事 | 東海東京証券(SBI、マルサン、マネックスが引受) |
公募と売出の比率は47:53で、売出がやや多い構成です。会社に入る資金は公募分(OA分は払込次第)だけで、売出代金は売出人に入ります。
売出人【開示】
| 売出人 | 売出株数 |
|---|---|
| 名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号投資事業組合 | 285,000 |
| みやぎん宮崎大学夢応援投資事業有限責任組合 | 200,000 |
| 九州広域復興支援投資事業有限責任組合 | 200,000 |
| 株式会社アニヴェルセルHOLDINGS | 125,000 |
| アクシル・ライフサイエンス&ヘルスケアファンド2号 | 125,000 |
| SMBCベンチャーキャピタル産学連携2号 | 40,000 |
| みやざき未来応援2号ファンド | 20,000 |
| きぼう投資事業有限責任組合 | 15,000 |
| 株式会社ベクトル | 15,000 |
| みやざき未来応援3号ファンド | 10,000 |
| 古田晃浩(個人) | 7,000 |
| 長久厚(個人) | 5,200 |
| 合計 | 1,047,200 |
売出人のうちVC・事業会社10者が1,035,000株(98.8%)で、個人は2名・12,200株のみです。創業者の新庄社長、CTOの黒澤氏らは売出に参加していません。
大株主(上位)【第三者(目論見書ベース)】
| 株主 | 株数 | 比率 | 売出後の株数 | ロックアップ |
|---|---|---|---|---|
| 名大・東海2号(VC) | 1,225,000 | 15.96% | 940,000 | 90日/1.5倍 |
| 九州広域復興支援(ファンド) | 1,000,000 | 13.03% | 800,000 | 90日/1.5倍 |
| 新庄勝浩(代表取締役) | 954,000 | 12.43% | 954,000 | 180日 |
| 黒澤仁(従業員、CTO) | 930,000 | 12.12% | 930,000 | 180日 |
| アクシル・ライフサイエンス2号(VC) | 625,000 | 8.14% | 500,000 | 90日/1.5倍 |
| 小泉信一(取締役) | 510,000 | 6.64% | 510,000 | 180日 |
| アニヴェルセルHOLDINGS | 500,000 | 6.51% | 375,000 | 90日/1.5倍 |
| 森下和広(従業員) | 480,000 | 6.25% | 480,000 | 180日 |
| 柴崎友一朗(執行役員) | 338,000 | 4.40% | 338,000 | 180日 |
| みやぎん宮崎大学夢応援(VC) | 250,000 | 3.26% | 50,000 | 90日/1.5倍 |
比率の分母は上場前の株数と潜在株式の合計で、新株予約権の分(新庄氏50,000、小泉氏50,000など)を含みます。「売出後の株数」は株数の列から売出株数を引いた数字です【推計】。
2. 財務の正常化
2-1. 実績【開示】
| 決算期 | 売上高 | 営業損益 | 経常損益 | 純損益 | 純資産 |
|---|---|---|---|---|---|
| FY23/3 | 3.8 | ― | −119.3 | −119.6 | 314.1 |
| FY24/3 | 66.2 | ― | −147.9 | −148.2 | 165.9 |
| FY25/3 | 144.5 | −116.3 | −103.5 | −103.8 | 532.1 |
| FY26/3 | 337.5 | +35.9 | +36.4 | +36.1 | 568.2 |
| FY27/3 1Q | 41.9 | −37.2 | −36.9 | −37.0 | 531.2 |
FY25/3(第6期)は為替換算に関する誤謬を遡及訂正しており、株主総会で承認された計算書類の数値と一部異なります【開示】。
2-2. 売上の中身【開示】
| 区分 | FY26/3 | 前期比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 共同プロジェクト | 298.9 | 3.2倍 | 契約一時金・研究マイルストーン |
| 自社プロジェクト | 36.7 | 0.87倍 | 日本曹達へのネコ用抗体の導出一時金(MD&Aは「第4四半期に導出契約」と記載) |
| コンサルティング | 2.4 | ― | |
| その他 | 2.0 | 0.57倍 | |
| 合計 | 337.5 | 2.3倍 |
主要顧客の売上と構成比は次のとおりです。
| 顧客 | FY25/3 | FY26/3 | FY27/3 1Q |
|---|---|---|---|
| 日本曹達 | ― | 130.0(38.5%) | ― |
| MSD Animal Health | 10%未満 | 98.4(29.1%) | 29.7(70.9%) |
| Ceva | 49.1(34.0%) | 70.3(20.8%) | 9.8(23.5%) |
| Virbac | 45.5(31.5%) | 10%未満 | ― |
| 共立製薬 | 39.3(27.2%) | 10%未満 | ― |
| 上位の合計 | 92.7% | 88.4% | 94.4% |
顧客はほぼ入れ替わりながら、常に上位3社以内に売上が集中しています。収益は契約時の一時金とマイルストーンで、ロイヤリティはまだありません。2026/3末の前受金は2.8百万円で、前期末の29.1百万円から減っており、売上は契約時に近いタイミングで計上されます。繰延収益の積み上がりによる売上の下支えは見込めません【開示】。
2-3. FY26/3の正常化【推計】
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 営業利益 | +35.9 | 開示値 |
| 自社PJ導出一時金(日本曹達) | −36.7 | 自社プロジェクト区分の全額が日本曹達向けと仮定 |
| 一時金を除いた営業損益 | −0.8 | ほぼ損益分岐 |
販管費は300.3百万円(研究開発費158.9、役員報酬48.0を含む)で、1Qは79.1百万円(研究開発費38.1)です。1Qの水準を年換算すると316百万円で、売上がこれを上回って初めて黒字になります(売上原価はほぼゼロ)。FY27/3 1Qの売上41.9百万円は、年換算で損益分岐の約半分です。
キャッシュ面では、FY26/3の営業CFは+11.6百万円(助成金9.8百万円を含み、売掛金の増加35.1百万円、前受金の減少26.3百万円で圧縮)、投資CFは−44.7百万円(設備投資)で、フリーCFは約−33百万円でした。期末の売掛金は78.9百万円で、売上の23%に相当します。
2-4. FY27/3の感応度【推計】
会社の業績予想は未開示です。IPO情報サイトには「単体予想EPS −1.58円」の記載がありますが、出所は確認できていません【第三者・要確認】。
第2四半期(7〜9月)の試算。 日本曹達の共同研究2契約の一時金は、FY26/3の130.0百万円から導出の36.7百万円を引いた約93百万円と読めます。1契約あたり約47百万円で、過去の契約水準は20〜50百万円台です。そこで日本曹達のマイルストーンXを20〜60百万円、それ以外の売上Yを20〜40百万円と仮置きします。2Qの販管費は1Qと同じ79百万円とします。
| H1の営業損益(百万円) | Y=20 | Y=40 |
|---|---|---|
| X=20 | −76 | −56 |
| X=40 | −56 | −36 |
| X=60 | −36 | −16 |
Xの額は非開示で、上の範囲は筆者の仮置きです。Xが60百万円を超えてYも大きくない限り、H1は赤字で終わる計算です。2Qの営業黒字化は難しく、通期の黒字は下期の新規契約や自社PJの導出に依存します。会社は第3四半期以降の自社PJ導出を見込むと述べています【開示】。
通期の試算。 販管費を年316百万円、上場費用10百万円を営業外で費用化、税負担を約0.3百万円とします。EPSは上場後株数8,054,700株で計算します(加重平均株数ではやや大きくなります)。
| FY27/3売上 | 営業利益 | 純利益 | EPS | PER(830円) | PER(600円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 250 | −66 | −77 | 赤字 | ― | ― |
| 350 | +34 | +23 | 2.9円 | 285倍 | 206倍 |
| 450 | +134 | +123 | 15.3円 | 54倍 | 39倍 |
| 550 | +234 | +223 | 27.7円 | 30倍 | 22倍 |
FY26/3(337.5百万円)並みの売上では利益はほぼ出ません。売上を5.5億円まで伸ばしても830円のPERは30倍で、割安感はありません。
3. ビジネスと競争優位
ビジネスモデル【開示】: イヌ・ネコの脾臓などから作ったナイーブ型のファージ抗体ライブラリー(MOURA、約10億種類)から標的に結合する抗体を取り、開発・製造・販売の権利を動物薬企業に導出します。収益は契約一時金、研究・開発マイルストーン、販売ロイヤリティ、販売マイルストーンの5種類です。開発費はパートナーが負担するため、自社は創薬研究に集中します。
プロジェクト(2026年8月末)【開示】: 19件の内訳は、前臨床相当7件(うち4件が導出済みでCeva、Virbac、日本曹達、共立製薬)、探索段階11件(うち10件が動物薬大手との共同研究)、ヒト用1件(すい臓がん、公的研究機関との共同研究)です。パートナーはMSD、Ceva、Virbac、日本曹達、共立製薬、Boehringer Ingelheimなど。
強み:
- 完全イヌ型・完全ネコ型の抗体を独立企業として提供できるのは、会社の説明では完全イヌ型が自社と米Vetigenicsのみ、完全ネコ型は自社のみです(会社の主張、第三者による裏取りなし)。
- ヒトで実績のある抗体薬と同じ標的を狙うため、開発の成功確率が相対的に高く、期間も約5年とヒト用の約10年より短いと会社は説明しています。
- 動物薬大手が自前で抗体技術を持たず、スタートアップを買収して補っています。届出書が挙げる事例は、Zoetis×NexVet(8,500万ドル)、Zoetis×PetMedix(2.1億ドル)、Elanco×KindredBio(4.44億ドル)などです。現在のEV(約55億円)は1ドル150円の仮置きで約3,700万ドルです。
弱み:
- 契約の解約権が広く、共立製薬、Virbac、日本曹達は30日前通知、Cevaは60日前通知で解約できます。Virbacの契約には支配権移転による解除の定めもあります。これまでに共同研究2件がパートナー判断で中止されました【開示】。
- 契約別の経済条件、標的、疾患、開発段階は秘密保持を理由に非開示で、外部から評価できません。届出書自身が、個別評価が困難になるリスクとして記載しています。
- 「現時点で臨床開発候補品までの創薬研究プロセスを自社で完遂した実績がない」とリスク欄に記載があります【開示】。
- 基盤技術は宮崎大学と藤田学園からのノウハウの独占ライセンス(2039年末まで)に依存します。研究所は名古屋大学内(使用契約は2029年10月末まで更新合意)と宮崎大学内(2029年3月末まで)の施設です【開示】。
- 従業員13名、平均年収537万円。技術はCTOの黒澤氏ら少数に依存します。
カテゴリー全体のリスク【第三者・筆者の判断】: 届出書は、Zoetisのペット用抗体医薬(2024年にLibrelaとSolenciaで合計5.81億ドル)を市場の根拠にしています。ところが2025年にはこの2製品の売上が前年割れとなり、安全性への懸念から有害事象の報告や訴訟が続いています。2026年Q2のZoetisは通期売上見通しを下方修正し、米国でLibrelaの売上が減った点を挙げました。標的や製品に固有の問題で、MabGenesisの抗体プラットフォームそのものの問題ではない可能性が高いですが、獣医師や規制当局の心理が冷え込めば、パートナーの投資姿勢にも波及します。
4. バリュエーション
4-1. PER
| 基準 | 830円のPER |
|---|---|
| FY26/3 EPS 5.08円(上場前7,114,000株、サイト表示) | 163倍 |
| 上場後株数(8,054,700株)で計算 | 185倍 |
| 潜在株式を含む(8,616,700株) | 198倍 |
サイトの163倍は、分母が上場前の株数で、時価総額の計算(上場後株数)と揃っていません。いずれにせよ、純利益36百万円は一時金の産物で、PERで評価できる局面ではありません【推計】。
4-2. EV・PBR(IPO手取り込みのプロフォーマ)【推計】
純流動資産は、2026/6/30の流動資産500.4百万円から負債12.9百万円を引き、公募手取り(引受価額=発行価格の92%、諸費用10百万円控除)を足して求めました。OA分と新株予約権の行使資金は含みません。2Q以降の費用や入金は反映していません。
| 公開価格 | 800円 | 815円 | 830円 |
|---|---|---|---|
| 時価総額(億円) | 64.4 | 65.7 | 66.9 |
| 純流動資産(億円) | 11.7 | 11.8 | 12.0 |
| EV(億円) | 52.7 | 53.8 | 54.9 |
| EV/売上(FY26/3) | 15.6倍 | 15.9倍 | 16.3倍 |
| EV/売上(1Q年換算) | 31.5倍 | 32.1倍 | 32.8倍 |
| PBR | 5.3倍 | 5.4倍 | 5.4倍 |
| 純流動資産/株 | 145円 | 147円 | 148円 |
EVは現金同等物をほぼ使い切るペースではなく、純流動資産は約3.8年分の販管費(年316百万円、売上ゼロの場合)に相当します。無借金で、自己資本比率は97%台です。
4-3. 必要な利益水準の逆算【推計】
上場から約4.4年後(FY31/3末)に、要求リターン年12%を満たすEVと営業利益です。
| 買値 | 現在のEV | FY31/3に必要なEV | 必要な営業利益(EV/営業利益20倍) | 同(15倍) | FY26/3営業利益の倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 830円 | 54.9億円 | 90.4億円 | 4.5億円 | 6.0億円 | 12.6〜16.8倍 |
| 700円 | 44.4億円 | 73.1億円 | 3.7億円 | 4.9億円 | 10.2〜13.6倍 |
| 600円 | 36.4億円 | 59.9億円 | 3.0億円 | 4.0億円 | 8.3〜11.1倍 |
| 500円 | 28.3億円 | 46.6億円 | 2.3億円 | 3.1億円 | 6.5〜8.7倍 |
FY26/3の営業利益は一時金に支えられた35.9百万円で、継続的な水準ではありません。
4-4. 5シナリオの確率加重【推計・筆者の主観】
FY31/3末の株主価値を、純現金(現在の約12億円から、シナリオごとの赤字を差し引いたもの)にEVを足して求め、潜在株式を含む8,616,700株で割っています。確率は筆者の主観で、下の感応度表で振れ幅を確認できます。
| シナリオ | 確率 | 想定 | 株主価値 | 1株 |
|---|---|---|---|---|
| 失敗 | 15% | 提携縮小・マイルストーン途絶。純現金のみの評価 | 6.0億円 | 70円 |
| 停滞 | 30% | 売上3億円規模で赤字継続。EV9億円(売上の3倍)+純現金8億円 | 17億円 | 197円 |
| 堅調 | 35% | 売上8億円、営業利益1.5億円。EV30億円(営業利益の20倍)+純現金12億円 | 42億円 | 487円 |
| ブレイク | 17% | 売上15億円、営業利益5億円(初期のロイヤリティ等)。EV100億円(20倍)+純現金12億円 | 112億円 | 1,300円 |
| 買収・大型提携 | 3% | 米国の買収事例を参考に時価総額170億円 | 170億円 | 1,973円 |
期待値は1株520円、年率12%で割り引いた現在価値は316円です。
| ブレイクの確率 | 期待値(FY31/3) | 妥当株価(要求8%) | 妥当株価(12%) | 妥当株価(15%) |
|---|---|---|---|---|
| 10% | 443円 | 316円 | 269円 | 240円 |
| 17%(基準) | 520円 | 371円 | 316円 | 281円 |
| 25% | 609円 | 434円 | 370円 | 329円 |
| 35% | 719円 | 512円 | 437円 | 389円 |
ブレイクの確率を35%(基準の2倍)、要求リターンを8%に緩めても、妥当株価は512円です。830円は、これらの前提のどれを楽観側に振っても届かない水準です。
5. 需給とオーバーハング
5-1. 放出量と配分
吸収金額は18.3〜19.0億円(OA込)で、時価総額の約28%が市場に出ます。売出人の98.8%がVC・事業会社で、会社に入るのは公募分のみです。
幹事配分は東海東京が95.0%で、ネット証券の配分は小さいです【第三者(トレーダーズ・ウェブ)】。当選口数は22,859口(100株単位)で、SBIとマルサンは各397口、マネックスは198口程度です。
OAは、東海東京が新庄社長から借りた298,000株で、返却用にシンジケートカバー取引(2026/11/2〜11/27)で買い戻すか、買い戻せなかった分を12/2の第三者割当で新株として払い込みます。カバー期間中は、公開価格を下回ると主幹事の買いが下支えになりますが、期間が終わると支えは消えます【開示】。
5-2. VCの残存株
| 項目 | 株数 | 備考 |
|---|---|---|
| VC・事業会社の保有(上場前) | 4,050,000 | 発行済株式の56.9% |
| 売出 | 1,035,000 | 保有の25.6% |
| 売出後の保有 | 3,015,000 | 上場後株数の37.4% |
| 公募+売出(OA除く) | 1,987,900 | 残存株はこの1.52倍 |
| 公募+売出+OA | 2,285,900 | 残存株はこの1.32倍 |
売出後も、市場に出た株数を上回る株が、90日で解除される集団に残ります【推計】。VCの取得単価は、直近のB種優先株が400円です。830円は2.1倍で、売却益は確定しています。ファンドには期限があるため、2027年2月のロック解除後に売却が続きやすい構造です。
5-3. ロックアップ【開示】
| 対象 | 期間 | 条件 |
|---|---|---|
| VC・事業会社10者 | 〜2027/1/30(土)。実質の売却解禁は2/1(月) | 公開価格の1.5倍以上で、主幹事経由の取引所売却は例外。800円なら1,200円、830円なら1,245円。主幹事は裁量で解除可能 |
| 新庄社長、売出個人2名、黒澤氏、小泉氏、森下氏、柴崎氏、前田氏、社外役員(河合、初澤、工藤、西井) | 〜2027/4/30(180日) | 主幹事は裁量で解除可能 |
| 会社 | 〜2027/4/30 | 株式・転換証券の発行を制限(OA、SO、株式分割を除く) |
1.5倍の基準は、想定価格ではなく今後決まる公開価格です。1,245円はB種価格の3.1倍で、ロックアップが「株価が上がれば解除」の構造のため、上値は重くなりやすい一方、下がった局面ではロックアップが2月に自動で外れます。
5-4. 新株予約権(SO)【開示】
| 回 | 株数 | 行使価格 | 行使期間(開始) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 第1回 | 20,000 | 60円 | 上場日経過後〜2031/10/28 | 上場前は行使不可 |
| 第4回 | 349,000 | 130円 | 2027/2/22〜2035/2/21 | 上場日から12か月は50%、次の12か月は80%、以降100% |
| 第5回 | 193,000 | 130円 | 2027/5/15〜2035/5/14 | 同上 |
| 合計 | 562,000 | 上場時株数の7.0% |
上場後1年目に行使可能なのは約291,000株(3.6%)です。行使価格は60〜130円で、株価との差が大きく、行使後に売りが出やすい水準です。第4回の行使開始(2027/2/22)は、90日ロック解除の約3週間後に重なります。
5-5. 第三者の評価【第三者】
| 媒体 | 評価 | 初値予想 |
|---|---|---|
| 庶民のIPO | C(公募割れのリスクがややある) | 760〜860円(仮条件後に修正) |
| IPO株式投資基礎講座 | D | 763〜950円 |
| 96ut | C(4点)。仮条件を大きく引き下げたのは主幹事が売値を気にしたため、と見る | 900円(BB開始時) |
| kabu.bridge salon | C | 902〜1,172円(想定価格基準、仮条件前) |
庶民のIPOのアンケート(154票)では、公募割れ(830円未満)が61%で最多です。1〜1.2倍が19%、1.2〜1.5倍が5%、1.5〜2倍が7%、3倍以上が6%でした【第三者】。同市場・同業種の直近IPOは、ジェイファーマ(2026/3)が0.92倍、イノバセル(2026/2)が0.92倍、Heartseed(2024/7)が1.33倍、PRISM BioLab(2024/7)が1.09倍、Chordia Therapeutics(2024/6)が1.67倍です。
6. 会計・ガバナンスリスク
- 利益の再現性: FY26/3の黒字は一時金の積み上げで、継続的な収益源ではありません。収益の変動性と契約終了は届出書でも主要リスクとして挙げられています。
- 顧客集中と解約権: 上位3社が売上の9割前後を占め、契約には任意の解約権があります。パートナーが1社離れるだけで売上が大きく振れます。
- 為替: 外貨建て取引があり、届出書は影響度を「大」としています。FY25/3の誤謬の遡及訂正も為替換算に関するものでした【開示】。
- 組織: 従業員13名。内部監査は部門間の相互監査で運営されています。役員報酬の個別額は代表取締役が一任で決めています。社外取締役の河合氏と社外監査役3名はいずれもSOを保有しており(30,000株、12,000株、28,000株、10,000株)、独立性の観点で注意が必要です。社外取締役の山口氏は2026/7に就任したばかりです【開示】。
- 資金使途: 運転資金3.56億円の約87%(3.09億円)は研究員以外の人件費です。研究開発費5.42億円のうち人件費は2.21億円(41%)で、成長投資というより現状の体制を維持する色合いが強いです。充当は2028年3月期以降で、手取金はそれまで安全性の高い金融商品で運用します。
- 配当: 無配。繰越利益剰余金は67.7百万円のマイナスで、当面は研究開発資金を優先します【開示】。
- 未確認事項: 公開価格とBBの倍率は10/22まで未確定です。日本曹達のマイルストーンの金額と計上時期、2Q決算の日付、パートナーとの契約別の経済条件は確認できていません。仮条件は会社の開示を直接確認しておらず、複数のIPO情報サイトで一致を確認しました。幹事別の配分株数も第三者サイトの数字で、一次資料は未確認です。
7. 株価シナリオと買い目線
7-1. 初値・上場後の見通し【推計・筆者の判断】
| シナリオ | 初値目安 | 想定 |
|---|---|---|
| 強気 | 900〜1,000円 | 想定価格1,000円以下の統計的な強さ、2Qの一時金期待、シンジケートカバーの下支えが重なる |
| 中立 | 780〜860円 | 公開価格付近で売り抜けたい層と押し目買いが拮抗 |
| 弱気 | 680〜770円 | 医薬品IPOの直近2件の公募割れ、東海東京への配分偏重、BBの弱さが出る |
筆者は公募割れの確率を約50%と見ます。アンケートの61%より低くしているのは、10月の2社がいずれも公開価格を上回ったことと、1,000円以下の低位株の統計的な強さを加味したためです。公開価格が830円で決まった場合、100株あたりの損益は、初値700円で−1.3万円、830円で0、900円で+0.7万円、1,000円で+1.7万円です。
上場後3〜6か月の株価帯は次のとおりです。
| シナリオ | 株価帯 | 条件 |
|---|---|---|
| 強気 | 900〜1,200円 | 自社PJの導出や新規パートナーが決まり、通期黒字の確度が上がる |
| 基本 | 580〜780円 | 目立つ材料なく黒字ぎりぎり。2月のロック解除前後に需給が悪化 |
| 弱気 | 430〜540円 | 通期赤字の見通し、導出の遅れ、VCの売却 |
7-2. 買い目線(長期保有・ロングオンリー前提)
| 目線 | 価格帯(円) | 条件 | EV/売上(FY26/3) | 確率加重の期待リターン(年率) |
|---|---|---|---|---|
| 様子見 | 600超 | 期待値がマイナス | 10.8倍超 | −3%以下(830円なら−10%) |
| 打診買い | 500〜550 | 2Qで営業黒字が見え、通期予想が開示された場合に限る | 8.4〜9.6倍 | −1.3〜+0.9% |
| 本格買い | 400〜450 | ロック解除前後の需給悪化を織り込んだ局面 | 6.0〜7.2倍 | +3.4〜+6.2% |
| 積極買い | 350以下 | 純流動資産の2.4倍以下。要求リターンが10%近くになる水準 | 4.8倍以下 | +9.4%以上 |
- 公募・初値での参加は見送り寄りです。 830円は確率加重の試算で年率−10%、公開価格が800円でも−9%です。
- 現実的に買い場が来るかは不確かです。 上記の買い帯は、上場後の弱気シナリオ(430〜540円)の中に入っています。低位株・バイオの買いで500円台に下がらないまま推移する可能性もあり、その場合は見送りで構いません。
- 見直しのトリガー(買い方向): 自社PJの新規導出、MSD・Ceva以外のパートナー獲得、通期黒字の予想開示、日本曹達のマイルストーンが想定を大きく上回る額だったとき。ブレイクの確率を25%に引き上げても妥当株価は370円(要求12%)で、買い目線は500円台止まりです。
- 見直しのトリガー(売り方向): パートナーの解約通知、2Qの一時金が想定を下回る、通期予想が赤字、Zoetisなど先行品の安全性問題の拡大。
- 前回からの変更: 前回の本格買い帯(520〜560円)は、今回の試算では期待リターンが−1〜+1%にとどまるため、打診買いの帯に引き下げました。
8. モニタリング・チェックリスト
| 時期 | 確認項目 |
|---|---|
| 10/22 | 公開価格(上限830円か、下限800円か)、BBの倍率、東海東京の配分 |
| 11/2 | 初値、OAの動き。11/27までのシンジケートカバー取引の有無 |
| 11月中旬(〜11/14、日付は未発表) | 2Q決算:日本曹達マイルストーンの額、H1営業損益、通期予想を開示するか |
| 12/2 | OAの第三者割当の払込(カバー取引で買い戻した分は失権し、残りが新株になる) |
| 2027/2/1前後 | 90日ロックアップ解除(3,015,000株)。大量保有報告書(名大2号、九州広域、アクシル、アニヴェルセル) |
| 2027/2/22 | 第4回SO(349,000株)の行使開始 |
| 2027/4/30 | 180日ロックアップ解除(役員・従業員・売出個人) |
| 2027/5/15 | 第5回SO(193,000株)の行使開始 |
| 2027年5月頃 | FY27/3本決算とFY28/3の予想。FY28/3から資金使途の実行が始まる |
| 随時 | 日本曹達・Ceva・MSD・Virbac・共立製薬の開示、新規パートナーの発表、自社PJの導出(会社は第3四半期以降を見込む) |
| 随時 | Zoetisの決算とLibrela・Solenciaの動向、為替(円安は外貨建て売上に追い風) |
出典
- EDINET 有価証券届出書(2026/9/28提出)
- JPX 新規上場会社概要(Outline)
- 日本曹達 マイルストーン達成のお知らせ(2026/8/27)
- voix.jp 日本曹達のマイルストーン達成
- トレーダーズ・ウェブ 653A IPO情報
- 庶民のIPO 653A
- 庶民のIPO 2026年IPOデータ
- IPO株式投資基礎講座 MabGenesis
- 96ut MabGenesis IPO新規上場情報
- kabu.bridge salon 653A
- Money Magazine MabGenesis IPO
- 松井証券 仮条件情報(10/13)
- Zoetis 2026年Q2決算(StockTitan)
- Zoetis株の下落とLibrela・Solenciaの安全性懸念(Zacks)
- Vet Times Librela訴訟の報道