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658A · グロース · 上場日 2026/11/06 · 公開 2026/10/21

2026/10/21時点の情報で作成しています。ブックビルディングは10/21〜10/27、公開価格の決定は10/28です。凡例は【開示】=目論見書・届出書などの一次資料、【会社計画】=会社の業績予想、【推計】=筆者の逆算・試算、【第三者】=IPO情報サイトや市況サイトの数値です。金額の単位は特記なき限り百万円です。出典は本文中のリンクと末尾の一覧に付けています(Ⅰの部のページ番号はPDFのページです)。

エグゼクティブサマリー

観点 評価 要点
成長性 ◎(M&A込み) 売上はFY25の20.8億円(+90.3%)から、H1 FY26は17.5億円(前年同期比+96.8%)へ【開示】
成長の質 △ リカーリング売上は+60%、全体は+97%。売上増加額の約4割は非リカーリング(M&A由来が中心)【推計】
収益性 △ H1の営業損益は−2百万円でほぼ均衡。会社計画のFY26通期営業利益は1百万円にとどまる【第三者・要確認】
財務・キャッシュ ○ 現金40.9億円、借入15.3億円で純現金25.6億円。ただしH1の営業CFは契約負債の増加(+3.4億円)が支えている
バリュエーション △ EV/売上(FY26計画)は3.7〜3.9倍(希薄化後は4.2〜4.3倍)。確率加重の価値は約1,140円で、仮条件上限とほぼ同水準
需給 ✕〜△ 売出が99.1%。最大株主のUTECは全株売却。オファリングレシオ36.7%(OA込み42.2%)。残るVC約318万株は512日ロックだが、公開価格の1.5倍で解除
ガバナンス △ 買収4件ののれんが全額減損。ARR・解約率・NRRは非開示。減資で中小法人の税制措置を狙う
総合 公募は見送り寄り 買い目線は後述。上場後に900円を割る局面から段階的に検討

結論: 仮条件の上限1,100円は、会社計画どおりにFY26が着地し、FY28に売上65億円・営業利益率14%・出口EV/売上3.0倍まで進む「ベースシナリオ」をほぼ満額で織り込んだ価格です。下振れ(約540円、−51%)と上振れ(約1,900円、+72%)を確率30:45:25で加重すると約1,140円になり、安全域はありません。事業そのもの(大手デベロッパー・信託銀行に深く入ったデータ基盤)は本物ですが、IPOの中身は既存VCの出口で、会社に入る資金は実質ほぼ借入返済に消えます。公募・初値での取得は見送り寄りとし、上場後の押し目を待つ戦略が合理的です。

1. ディール概要【開示】

項目 内容 出典
市場・上場日 東証グロース(略称G-estie)、2026/11/6 JPX 新規上場会社概要
日程 仮条件決定10/20、BB 10/21〜10/27、公開価格決定10/28、申込10/29〜11/4、払込11/5 JPX 新規上場会社概要
仮条件 1,070〜1,100円(想定発行価格1,070円) 野村證券、有価証券届出書
公募 50,000株(発行価格総額53.5百万円、差引手取は約24百万円) 有価証券届出書 第一部 第1 募集要項
売出(買取引受) 5,638,800株。一部は欧州・アジア中心に海外販売(株数は10/28決定) 有価証券届出書 第一部 第2 売出要項
OA 上限853,300株。売出人はSMBC日興証券、貸株人は代表取締役の平井瑛氏。第三者割当(払込12/9)の行使期限は12/4 有価証券届出書
上場時発行済株式数 15,493,800株(OA全額行使で16,347,100株) JPX 新規上場会社概要
潜在株式 2,354,000株(上場前株式数の15.2%) Ⅰの部 p.27
時価総額 約165.8億円(1,070円)〜約170.4億円(1,100円)【推計】 上場時株式数×仮条件
吸収金額 公募+売出で約60.9〜62.6億円、OA込みで約70.0〜72.0億円【推計】 株数×仮条件
オファリングレシオ 36.7%(OAなし)/42.2%(OA込み)【推計】 公募+売出÷上場時株式数
資金使途 手取は最大約8.6億円(OA第三者割当の全額行使時)。借入金返済7.75億円(FY27 4.75億円、FY28 3.0億円)、企業買収0.89億円(案件は未定) 有価証券届出書 第一部 第1 募集要項 手取金の使途
幹事 共同主幹事はSMBC日興証券・みずほ証券。引受は野村、SBI、楽天、松井、岡三、丸三 有価証券届出書
親引け 上限合計11億円(UntroDクロスオーバーインパクトファンド2号5億円、三井不動産3億円、三菱地所3億円) 有価証券届出書 第一部 第2 売出要項 注
会社 代表取締役 平井瑛氏。2018/12設立、東京都港区。連結従業員188名(2026/8末)。監査人は有限責任監査法人トーマツ Ⅰの部 p.13

公募比率は0.9%(50,000株÷5,688,800株)で、売出が99.1%を占めます。手取金は借入金の返済が中心で、成長投資の原資を調達するIPOではありません。時価総額の約37%(OA込みで42%)が市場に出るため、グロースの案件としては重い部類です。

2. 財務の正常化

2-1. 実績【開示】

FY24 FY25 H1 FY26
売上高 1,094 2,082(+90.3%) 1,751(前年同期比+96.8%)
売上総利益 870 1,585 1,333
売上総利益率【推計】 79.6% 76.1% 76.2%
販管費 1,521 2,115 1,335
販管費率【推計】 139.1% 101.6% 76.3%
営業利益 −651 −530 −2
経常利益 −633 −543 −3
減損損失(特別損失) – 657 282
親会社株主に帰属する純損益 −629 −1,202 −279
調整後EBITDA −631 −511 12
営業CF −329 −100 341
現金及び預金 3,907 4,070 4,091
有利子負債 700 1,520 1,527
契約負債 309 768 1,112
自己資本比率 64.9% 33.1% 25.4%
連結従業員数 105名 167名 188名(2026/8末)

出典: 指標はⅠの部 p.5、調整後EBITDAはp.18、経営成績とCFはp.27〜29、財務諸表はp.81〜85。

売上総利益率は79.6%から76%台に下がっており、買収した制作・メディア系の事業が混ざった影響とみられます【推計】。販管費率は139%から76%へ急低下し、営業レバレッジは効いています。

2-2. 成長の質(H1 FY26の分解)

会社は売上全体の伸びのほかに、リカーリング売上の前年同期比伸び率(FY25は+72%、H1 FY26は+60%)とH1 FY26のリカーリング比率(77%)を開示しています(Ⅰの部 p.18、p.27〜28)。そこから前年同期を逆算しました。

H1 FY25【推計】 H1 FY26【開示+推計】 増加額
売上高 889 1,751 +861(+96.8%)
リカーリング売上 842 1,348 +505(+60%)
非リカーリング売上 47 403 +356(約8.6倍)
  • 売上の増加額861のうち、約41%(356)は非リカーリングです。買収した住宅新報(専門紙・教育)やクラフコ(Web制作・不動産売買仲介)の取り込みと、エンタープライズ実装の売上が中心とみられます。
  • リカーリングの+60%にも、買収事業の継続課金が含まれる可能性があります。会社はM&Aを除いた売上の伸びを開示していないため、オーガニック成長率は特定できません。
  • H2 FY25の売上は約1,193【推計】で、H1 FY26はそこから+47%の増加です。連結範囲の拡大の影響が大きい数字です。
  • 会社が自慢するRule of 40は97.5%(売上成長96.8%+調整後EBITDAマージン0.7%)です。リカーリング成長率(+60%)で置き換えると約61%です【推計】。それでも高水準ですが、見た目の半分強です。

2-3. FY26の会社予想から逆算するH2

目論見書・届出書には業績予想は載っていません。トレーダーズ・ウェブが掲載している会社予想(売上3,750、営業利益1、経常利益−24、純利益−350、EPS −35.22円)を使います。一次資料(10/20の訂正届出書や決算短信相当の開示)で直接確認できていないため【第三者・要確認】です(トレーダーズ・ウェブ 658A)。

H1実績【開示】 FY26予想【第三者・要確認】 H2必要額【推計】
売上高 1,751 3,750(+80.1%) 1,999(H1比+14.2%)
営業利益 −2 1 +3
経常利益 −3 −24 −21
親会社株主純損益 −279 −350 −71
  • 売上は、H2でH1比+14%の積み上げで達成できる設計で、確度は高めです。契約負債が1,112まで積み上がっていることも支えになります。
  • 一方で利益は、通期の営業利益が1百万円(ほぼゼロ)です。「黒字化」は通期ではなくFY27以降の話になります。純損失−350のうち−279はH1で確定済みで、その大半はH1の減損(282)です。
  • EPS −35.22円のため、PERは算出できません。評価はFY27以降の収益力の見立てに依存します。

2-4. 利益・キャッシュフローの正常化【推計】

項目 内容
FY25の純損失 −1,202から減損656.5を除くと約−545。実力ベースでも赤字
H1 FY26の純損失 −279から減損281.5を除くと約+2。実力ベースでほぼ均衡(税・非支配株主持分の影響は無視)
調整後EBITDA +12.2。営業損益−1.9に減価償却費と株式報酬費用(H1で9.2)を足し戻した値
H1の営業CF +341のうち、契約負債の増加が+344。これを除くと約−3

契約負債は「顧客から契約期間分の料金を一括で受領すること」による前受金です(Ⅰの部 p.28)。先行指標としては前向きですが、請求の時期に偏りがあれば営業CFは季節的にぶれます。H1のプラスCFを通期の実力とは見ません。

2-5. 財務基盤【開示+推計】

項目 2026/6末
現金及び預金 4,091
有利子負債(長期借入金+1年内返済) 1,527
純現金【推計】 2,564(公募手取を加えると約2,588)
契約負債 1,112(前受金として差し引いた純現金は約1,451【推計】)
株主資本 1,178(累積赤字3,551)
自己資本比率 25.4%

有利子負債はFY24末の7.0億円からFY25末の15.2億円に増えました。FY25に長期借入12億円を新規に調達し、4.3億円を返済しています(Ⅰの部 p.29)。資金使途のとおり、FY27〜28に7.75億円を返済する計画です。資金繰りの不安は小さい一方、M&Aと採用を続ければキャッシュの余裕は縮みます。

3. ビジネスと競争優位

  • 事業: 商業用不動産の情報を収集・構造化したデータベース「Vertical Data」を、不動産事業者や金融機関に提供しています。サービスは、①Vertical Dataソリューション(オフィス・物流・住宅・J-REIT・所有者・案件管理)、②エンタープライズ実装(顧客ごとのAI・データ基盤の開発)、③専門情報サービス(専門紙・ポータル・資格講習)の3本です。単一セグメントです(Ⅰの部 p.10〜11)。
  • データ資産が堀です。 保有データはオフィスビル88,000棟、物流施設19,000棟、ホテル17,000棟、住宅260万棟(2026/8末)。2020年から蓄積した空室・募集賃料の時系列は、過去に遡って取得できないため、他社が短期間で再現するのは難しいと会社は説明しています(Ⅰの部 p.16)。
  • 顧客基盤は強力です。 総合デベロッパーTop10社のうち9割以上、J-REIT全58銘柄の5割以上、信託大手5行が導入済みです。リカーリング契約顧客は573社(2026/6末)で、売上の10%以上を占める顧客はありません(Ⅰの部 p.11、p.18、p.30)。リカーリング売上から単純計算した1社あたり年額は約4.7百万円です【推計】。
  • ただし大手層は浸透が進んでいます。 会社自身がリスクに、大手顧客への導入が進んだ段階では「新規契約の獲得による売上高の増加ペースが過年度と同水準では推移しない可能性」を挙げています(Ⅰの部 p.22)。次の成長源は、全国に30万社以上あるとされる中堅・中小(単価は低い)と、実装・メディアなど非ソフトの売上(利益率は低い可能性)で、どちらも途上です(Ⅰの部 p.16〜17)。
  • KPIの開示が薄いです。 会社はARR・MRR・解約率を経営目標として設定しておらず、開示もしていません。理由は、売上にソフトウェア以外が含まれるためとしています。代わりに売上高、調整後EBITDA、Rule of 40を使い、解約・減額は「月次で把握し安定的」とだけ述べています(Ⅰの部 p.18)。SaaS銘柄としては、NRRや解約率を決算で開示させることが最初の宿題です。
  • 競合・生成AIリスク: 競合として既存の不動産情報サービス、汎用AI事業者、SI、顧客の内製を挙げています。PDFや営業メモをAIで構造化するコストが下がるほど、データ収集の優位は薄まる半面、顧客社内の情報と統合する実装の価値は上がります。AIの取り込みで売上がどれだけ増えているかは、売上区分が非開示のため確認できません。
  • 市場規模の参考値: 会社は不動産テック市場の約2,264億円(2022年度)と売買仲介のフィープール約5,100億円を挙げていますが、会社が獲得できる売上規模を直接示すものではないと明記しています(Ⅰの部 p.15〜16)。

4. バリュエーション

4-1. 倍率(上場時発行済株式数ベース)【推計】

純現金は2026/6末の25.6億円に公募手取0.24億円を加えた約25.9億円、売上は年換算(H1×2=3,501)、FY26は会社予想3,750を使います。

1,070円 1,100円
時価総額 165.8億円 170.4億円
EV 139.9億円 144.6億円
PSR(FY25実績 2,082) 8.0倍 8.2倍
PSR(H1年換算) 4.7倍 4.9倍
PSR(FY26計画) 4.4倍 4.5倍
EV/売上(FY25実績) 6.7倍 6.9倍
EV/売上(H1年換算) 4.0倍 4.1倍
EV/売上(FY26計画) 3.7倍 3.9倍
PBR(公募手取込み、BPS 77.6円) 13.8倍 14.2倍

PBRは累積赤字が大きいため参考値です。第三者サイトのPSR 7.96倍は、FY25実績売上ベースの数字と一致します(IPO基礎知識)。

4-2. 新株予約権を含む希薄化後【推計】

行使価格が公開価格を下回る新株予約権(184.5万株)を、自己株式取得方式(行使代金で自社株を買い戻すと仮定)で織り込みます。

1,070円 1,100円
純増株式数 約153万株(9.8%) 約153万株(9.9%)
希薄化後株式数 17,018,822株 17,027,549株
希薄化後EV 156.2億円 161.4億円
EV/売上(FY26計画) 4.2倍 4.3倍

以降の「安全域」「買い目線」は、この希薄化後ベースで計算しています。

4-3. 参考となる同業の水準

銘柄 数値 備考
Sansan(4443) 時価総額2,610億円、PSR約4.4倍【推計】 2026/10/21日中の値。2027年5月期Q1の売上148億円(+20.1%)を4倍して年換算、営業利益率は約15.5%
不動産DX系の黒字企業7社 今期予想PER 9.7〜19.9倍(平均14.7倍、中央値13.2倍) LIFULL 12.8倍、GA technologies 9.7倍、いい生活 19.8倍、日本情報 19.9倍、プロパティデータバンク 12.0倍、楽待 13.2倍、ミトラG 15.7倍(10/14時点)

出典: Yahoo!ファイナンス Sansan、トレーダーズ・ウェブ 658A【第三者】。Sansanの売上成長率はestieの約5分の1ですが、営業利益は出ています。estieのPSRがほぼ同水準というのは、高い成長を織り込む一方で、赤字や規模の小ささをほとんど割り引いていない水準とも読めます。PERの比較先は黒字企業であり、estieの現状(赤字)とは土俵が違います。

4-4. シナリオ別の株主価値【推計】

FY26売上は会社予想の3,750を共通の起点にしています。税は繰越欠損金で当面ゼロとみて、FY28の営業利益=税引後利益と置きます。FY27末時点の出口EVを割引率15%で1.2年分割り引き、純現金(約25.9億円)を加えて希薄化後株式数で割りました。

ベア(確率30%) ベース(45%) ブル(25%)
FY27売上成長率 +20% +35% +50%
FY28売上成長率 +15% +28% +40%
FY28売上高 5,175 6,480 7,875
FY28営業利益率 5% 14% 22%
FY28営業利益 259 907 1,732
出口EV/売上(FY28) 1.5倍 3.0倍 4.5倍
出口EV(FY27末) 7,762 19,440 35,437
(参考)出口EV/営業利益 30.0倍 21.4倍 20.5倍
現在価値 6,564 16,438 29,966
株主価値(純現金込み) 9,152 19,026 32,554
1株価値(希薄化後) 541円 1,117円 1,897円
1,100円との差 −51% +2% +72%

確率加重の1株価値は約1,140円です。仮条件の上限(1,100円)に対する安全域は3%しかありません。

  • ベースの前提には、FY27のオーガニック成長+35%(H1のリカーリング成長+60%から減速する想定)と、FY28に営業利益率14%(H1の販管費率76%からの低下)が含まれます。この水準に届かない場合、価値は下振れします。
  • ベースの出口EV/営業利益21倍は、黒字の同業の平均PER 14.7倍より高い水準です。成長プレミアムを前提にしています。

4-5. 感応度(1株価値、円)【推計】

FY28売上高 \ 出口EV/売上 1.5倍 2.0倍 2.5倍 3.0倍 3.5倍 4.5倍
5,175(ベア) 541 669 798 926 1,052 1,305
6,480(ベース) 638 799 959 1,117 1,275 1,591
7,875(ブル) 742 937 1,129 1,321 1,513 1,897

1,100円が正当化されるのは、「FY28売上65億円で出口EV/売上3.0倍」か「売上79億円で2.5倍」のような組み合わせです。 FY26計画(37.5億円)から売上を約1.7倍にするか、それ以上に伸ばす必要があります。同業並みの2.0倍なら、ベースの売上でも800円前後です。

5. 需給とオーバーハング

5-1. 上場時の株式の内訳【推計】

売出人・ロックアップ・潜在株式の開示を突き合わせると、上場時発行済株式15,493,800株は次のように分かれます(合計は一致します)。

区分 株数 比率
公募・売出(市場に出る株式。親引けを含む) 5,688,800 36.7%
512日ロック(2028/3/31まで、1.5倍で解除) 8,369,900 54.0%
90日ロック(2027/2/3まで、1.5倍で解除。Vertexの一部) 286,100 1.8%
180日ロック(2027/5/4まで、解除条件なし) 1,149,000 7.4%
合計 15,493,800 100.0%

別途、新株予約権2,354,000株が潜在株式としてあり、保有者の多くは180日ロックの対象です。

5-2. 売出人別【開示+推計】

売出人別の株数は有価証券届出書 第一部 第2 売出要項、保有株数はⅠの部 p.178(新株予約権分を除く)です。売却後の株数は筆者の計算です。

売出人 保有(潜在株式を除く) 売出株数 売却割合 売却後
UTEC4号投資事業有限責任組合 3,377,300 3,377,300 100% 0
日本政策投資銀行 858,700 819,900 95.5% 38,800
グローバル・ブレイン8号 334,900 334,900 100% 0
平井瑛(代表取締役。貸株人) 2,935,200 300,000 10.2% 2,635,200
Globis Fund VI 679,200 171,000 25.2% 508,200
グロービス6号ファンド 670,800 168,800 25.2% 502,000
Globis Fund VI-S 392,800 98,900 25.2% 293,900
グロービス6号Sファンド 388,000 97,700 25.2% 290,300
上田來(取締役CFO) 180,000 94,300 52.4% 85,700
束原悠吾(取締役) 405,500 88,000 21.7% 317,500
岩成達哉(取締役) 405,500 88,000 21.7% 317,500
合計 5,638,800
  • VCの出口が主目的のIPOです。 最大株主のUTEC(18.98%)は全株、グローバル・ブレインも全株を売ります。VC11ファンドの合計は7,424,000株(上場前の48.1%)で、売出後の残りは3,175,400株(上場時株式の20.5%、仮条件上限で約35億円)です。
  • 業務提携先の日本政策投資銀行が95.5%を売ります。 2023年10月に株式取得を伴う提携を始めた先が、ほぼ全株を手放すことになります(Ⅰの部 p.9)。提携の継続性は確認事項です。
  • 経営陣も売ります。 取締役3名は保有株の21.7〜52.4%(合計270,300株、約3億円)、代表取締役は10.2%を売却します。創業者は平井氏と資産管理会社HRIで2,635,200+2,000,000=4,635,200株、上場時株式の29.9%を保持します。

5-3. 親引け【開示+推計】

指定先 上限(取得金額) 株数の目安(1,100円〜1,070円) 目的
UntroDクロスオーバーインパクトファンド2号 5億円 約45.5万〜46.7万株 当社株主への参画による企業価値向上
三井不動産 3億円 約27.3万〜28.0万株 業務提携に関する基本合意先との関係維持・発展
三菱地所 3億円 約27.3万〜28.0万株 同上
合計 11億円 約100万〜103万株(公募+売出の17.6〜18.1%)

出典: 有価証券届出書 第一部 第2 売出要項の注。株数は上限額を価格で割った換算です【推計】。

  • プラスの面: 国内大手デベロッパーの2社が、業務提携の関係維持のために自ら株主になります。顧客でもある先の出資は、需要の質を高めます。
  • 注意点: 3社は継続保有の取り決めやロックアップの対象者に含まれていません。ファンドは保有を続ける義務がなく、売却される可能性があります。戦略出資の2社は保有を続ける公算が大きいと見ますが、契約上の拘束は開示されていません【筆者の判断】。

5-4. ロックアップ【開示】

ロックアップの内容は有価証券届出書 第一部 第2 売出要項の注(売出人等の継続所有確約)によります。

対象 期間 解除条件
平井瑛、HRI、日本政策投資銀行、Globis各ファンド、束原・岩成・上田の各取締役、ZFP第2号、三菱UFJ信託銀行、SuMi TRUSTイノベーション、Vertex Growth Fund II(572,100株) 2028/3/31まで(上場日から512日) 売却価格が発行価格または売出価格の1.5倍以上
Vertex Growth Fund II(286,100株) 2027/2/3まで(90日) 同上
青木信、田中陸、農林中央金庫、松島陽介、東京大学、その他75名 2027/5/4まで(180日) 記載なし
当社 2027/5/4まで 新株予約権の行使、株式分割などは対象外
  • 共同主幹事は、裁量でロックアップの全部または一部を解除、または短縮できます。
  • 1.5倍の解除条項は、上値の天井になります。 仮条件では1,605〜1,650円です。この価格を超えると、売出後のVC残(3,175,400株)や創業者側の株式にロックがかからず、約1,600円台は需給が重くなりやすいとみます【筆者の判断】。
  • 512日ロックは2028/3/31までと長く、上場から約1年半は大株主の大量売却が起きにくい面は、需給の安定要因です。

5-5. 新株予約権【開示+推計】

保有数はⅠの部 p.49〜57の各回の記載(提出日前月末の個数×100株)を集計しました。合計はp.178の2,354,000株と一致します。

行使価格 株数 備考 1,100円でのインザマネー
1円 1,038,500 第1回、第11〜13回、第17・18回、第22回(実質無償) ○
140円 489,000 第14・15回 ○
266円 40,000 第19・20回 ○
945円 277,500 第21回(2026年2月付与) ○(+155円)
1,479円または公開価格の高い方 509,000 第23・24回など(2026年8〜9月付与) ✕
合計 2,354,000 上場前株式数の15.2% インザマネー1,845,000株(約20億円)
  • 実質無償の103.9万株が売りの源泉です。 行使価格1円の新株予約権は、行使して売れば全額が利益になります。保有者の多くは180日ロック(2027/5/4)が明けた後に売却する可能性があります。
  • 最後に付与された新株予約権の行使価格は、1,479円または公開価格の高い方です。付与時点の会社の評価が、仮条件(1,070〜1,100円)より約34〜38%高い水準にあったことを示します。経営陣のインセンティブは1,479円超で初めて効きます。

5-6. 第三者の評価と初値予想【第三者】

情報源 評価・予想
ipokabu.net 初値予想1,080〜1,440円(10/20修正)、仮条件上限基準の予想利益−2,000円〜+3.4万円
kabu.bridge salon 評価C(1.0倍以上1.3倍未満)、初値予想1,070〜1,390円。売出中心、オファリングレシオ高め、赤字を懸念材料に
IPO基礎知識 総合評価D、初値予想984〜1,200円(10/1、仮条件前)
トレーダーズ・ウェブ 注目度A(初値予想は会員限定)

初値予想のレンジは、下限が割れ〜公開価格近辺、上限が+30%前後です。強気の予想は限られています。ipokabu.netは平井氏の売出を548,800株と記載していますが、届出書では300,000株です。本稿は届出書の数字を採用しています。

6. 会計・ガバナンスリスク

6-1. M&Aと減損【開示】

時期 対象 取得原価 のれん 処理
2025/8 住宅新報(株式100%。不動産専門メディア・教育) 85 137 FY25に減損
2025/11 事業譲受(不動産ドメインの制作機能・顧客基盤) 86 107 FY25に減損
2025/12 事業譲受(オフィス仲介会社の顧客基盤) 400 400 FY25に減損
2026/1 クラフコ(株式100%。Web制作・不動産売買仲介) 220 282 H1 FY26に全額減損
合計 791 925 減損累計938(FY25 657、H1 FY26 282)

出典: Ⅰの部 p.112〜120、p.134(企業結合の注記)、減損はp.27〜28。取得関連のアドバイザリー費用は、4件で合計約126百万円(38.1、22.0、24.4、41.3)です。

  • 4件すべてでのれんを全額減損しています。 会社は、統合後の事業計画を精緻化し、事業環境の変化を踏まえて資産価値を見直した結果と説明しています。取得価格に見合う利益は見込めないと判断したことを意味する一方、買収した事業の売上は連結に入り続けています。M&Aは「売上を買う手段」として機能し、投資の収益性は低いと見ます【筆者の判断】。
  • 会社はこれを受けて、独立社外取締役のレビューを反映した「M&A実施ガイドライン」を制定したと説明しています(Ⅰの部 p.23)。今回の資金使途にもM&Aの0.89億円が残ります。
  • 関係会社のうち、住宅新報(特定子会社)に債務超過の注記があり、超過額は2025/12/31時点で76.8百万円です(Ⅰの部 p.13)。

6-2. その他

  • KPI非開示: ARR、NRR、解約率が出ないため、リカーリング売上の質(既存顧客の拡大か、買収の積み上げか)を外から検証できません。調整後EBITDAは、減価償却費・のれん償却費・株式報酬費用を足し戻した会社独自の指標です(Ⅰの部 p.17)。
  • 減資による税制措置: 上場後に資本金を1,000万円まで減らし(効力発生は2026/12/31予定)、中小法人として繰越欠損金を課税所得の全額まで控除できるようにする計画です。会社は現行制度の範囲で適法とし、今後の制度変更や否定的な報道がリスクになるとも記載しています(Ⅰの部 p.26)。黒字化後の税負担を抑える効果はありますが、レピュテーションの面では議論を呼びやすい論点です。
  • 第三者割当との価格比較: 直近の資金調達(2024年10〜12月のB種優先株式)の発行価格は1,165.24円で、仮条件は5.6〜8.2%低い水準です(Ⅰの部 p.168)。調達時(2024年)から売上は、買収込みでH1の年換算が約3倍に増えていますが、評価は横ばいかやや低下です。B種優先株式は2026/8/28に普通株式へ1対1で転換済みです。ただし、当時の価格は優先株の権利を含むため、単純な比較はできません。
  • 組織: 代表取締役への依存、内部管理体制の整備を、会社自身がそれぞれ「影響度:大」のリスクとして挙げています(Ⅰの部 p.25)。平均勤続年数は提出会社で2.4年と短い組織です(p.13)。

7. 株価シナリオと買い目線

7-1. 初値・上場後の見通し【推計・筆者の判断】

シナリオ 初値目安 想定
強気 1,300〜1,450円 共同主幹事2社の販売力、AI×不動産のテーマ性、三井不動産・三菱地所の親引けが評価されて需給が締まる。第三者の最高予想は1,440円
中立 1,050〜1,250円 抽選当選者の利益確定と押し目買いが拮抗
弱気 920〜1,050円 売出99%・オファリングレシオ42%の重さと赤字が嫌気されて公募割れ。OA(約9.4億円相当)の買い支え余地があり、下値は限られやすい

公開価格が1,100円で決まった場合、100株あたりの損益は、初値900円で−2.0万円、1,000円で−1.0万円、1,200円で+1.0万円、1,300円で+2.0万円、1,440円で+3.4万円です。上値は公開価格の+30%前後が目安で、弱気シナリオでも初値は公開価格の−5〜−16%程度にとどまりやすいと見ます。ただし、これは初値の話であり、上場後の中期の価格形成(1.5倍の解除条項、ロック明け、決算)とは別です。

7-2. 買い目線(長期保有・ロングオンリー前提)

安全域は確率加重の1株価値(約1,140円)に対する割安度、EV/売上は希薄化後ベースです【推計】。

目線 価格帯(円) 安全域 EV/売上(FY26計画) 条件
様子見 1,000超 12%未満 3.8倍超 計画どおりでも安全域が薄い
打診買い 850〜950 17〜25% 3.2〜3.6倍 ベースシナリオの価値(1,117円)の76〜85%の価格
本格買い 700〜800 30〜39% 2.5〜2.9倍 出口EV/売上2.0倍(同業並み)でもベース売上なら800円前後
積極買い 550〜650 43〜52% 1.8〜2.3倍 ベアシナリオの価値(541円)付近。成長の失速をほぼ織り込んだ水準
  • 公募・初値での取得は見送り寄りです。 確率加重の価値が公開価格に重なり、下振れ(−51%)と上振れ(+72%)も釣り合っています。長期保有の取得価格としては、リスクに見合う余裕がありません。
  • 上場後に900円を割れば検討に入れます。 本格的に買うのは700〜800円帯です。FY28に売上65億円を達成し、出口が同業並みの2.0倍にとどまっても800円前後になる水準です。
  • 引き上げる条件: FY26通期決算で売上3,750・営業黒字を確保し、リカーリング売上の伸びが+40%超(M&Aなし換算)を維持し、NRRや解約率が追加開示される場合は、ベースの確度が上がります。その場合は打診帯の上限を1,000円近辺まで引き上げられます。
  • 上値の注意: 公開価格の1.5倍(1,605〜1,650円)でVC・役員のロックが解除されるため、1,600円台は戻り売りが出やすい水準です。ブルシナリオの1,897円は、この壁を越えた先です。
  • 見直しの基準: リカーリング成長率が+30%を割る、営業損失が再び拡大する、新規M&Aで追加の減損が出る、のいずれかが起きた場合は、買い目線を一段下げます。

8. モニタリング・チェックリスト

時期 確認項目
10/28 公開価格(上限1,100円か)、需要の強さ、幹事別配分株数、海外販売株数、親引けの確定株数
11/6 初値、OAの買い支えの動き、売買代金
〜12/4 OAの行使可否。行使されれば新株853,300株が発行され、手取は最大約8.4億円。行使されなければ買い支えが入った目安
2027/2/3 Vertex Growth Fund IIの286,100株(1.8%)の90日ロックが明ける
2027年2月前後(日程は未開示) FY26通期決算:売上3,750・営業利益1の達成度、リカーリング比率・成長率、営業CF(契約負債の推移)、NRR・解約率の追加開示、FY27の計画
2027/5/4 180日ロック明け:青木信・田中陸・農林中央金庫(基本株1,149,000株)と、新株予約権の保有者(最大1,648,500株)の売却。会社の新株発行制限も同日まで
随時 M&A案件(使途0.89億円)、追加の減損、親引け先・日本政策投資銀行など大株主の大量保有報告書
2027年12月期中 借入金の返済4.75億円(資金使途)、支払利息の推移
2028/3/31 512日ロック明け:約837万株(上場時株式の54.0%)。1.5倍(1,605〜1,650円)に届けば、それ以前でもロックは外れる
2028/8〜 第23・24回新株予約権(行使価格1,479円または公開価格の高い方)の行使開始

確認できていない事項

  • FY26の会社予想は、目論見書・届出書に記載がなく、トレーダーズ・ウェブの数値のみで確認しています。10/20の訂正届出書の直接確認は完了していません(仮条件は野村證券のページで確認済み)。
  • 幹事別の配分株数、海外販売株数、親引けの確定株数は未公表です(公開価格決定後に判明)。親引けの株数は上限額からの換算です。
  • ARR、NRR、解約率、サービス別売上(Vertical Data、エンタープライズ実装、専門情報サービス)は開示がなく、成長のオーガニック比率は推計です。
  • 同業比較は、Sansanの時価総額(日中値)と第三者サイトのPER(10/14時点)によるもので、売上倍率の同業比較は網羅していません。
  • 売出人・ロックアップの内訳は届出書(10/1提出)の記載です。仮条件決定後の訂正で変更があれば、公開価格決定後に更新が必要です。

出典